16、出会い?試練?

その牧場のとなりにバックパッカーがあった。町から遠く離れているため、観光客はひとりもいない。その代わり住んでいるのは地元の貧しいオーストラリア人ばかりだった。私はここで人生最大の過ちを犯すことになる。ある男と出会ってしまったのだ。
日本人スタッフは仕事が終わるとテレビのある隣の宿で夜をすごすことが多かった。最後の夜、私はここで見慣れぬ青年に声をかけられた。ひょろりと背の高い、大きな瞳をしたかわいい美男子だった。顔とは裏腹に低くて落ち着いた声にとても惹かれた。なんとなく気にいった私は結局こいつに口説かれ、町に戻るはずが、むかつく牧場からわずか10メートルお隣のバックパッカーにその後一ヶ月ほど留まることとなった。その後結局付き合うようになり、一緒にピッキングにいったりとなんだかんだ半年ほどの月日を彼と共に過ごした。ところがこいつは不幸の塊のような人だった。マリファナを常用し、やる気はあるが雇ってもらえる仕事はなく、前のおくさんを親友に寝取られ、娘も取られ、その後同棲した彼女には家も車も財産も根こそぎとられ、酔っ払いと喧嘩して重傷をおい入院した。宿で知り合ったアホオーストラリア人を
「僕らオーストラリア人は助けあってきた民族なんだ」
とかいって私の忠告も聞かず家にいれ、そいつに家賃を踏み倒されて逃げられた。おまけにその居候はいつの間にか人の家の電話を使いまくっており、彼が出て行った後には国際電話や、テレフォンセックスなどの膨大な請求書が届いた。もちろん私はびた一文ださなかったけど。彼にははっきりいって愛想が尽きていた。オーストラリア人は「レイジー(なまけた)オージー」とも呼ばれ、そのなまけっぷりが悪評高い。私の情報が正しければ、仕事をしなければ失業保険がなんと“一生”もらえるらしい。一生、である。もちろん贅沢はできないが、家賃払って酒飲むくらいの生活はできる。このレベルに満足し、しょうもないぬるま湯生活にどっぷり浸り、一日中テレビを見てすごすオージーを何人も見た。働きたくても働き口がないのだろうか?探す気がもともとないんだろうか?トイレ掃除だろうが、ウェイターだろうが、仕事なんて選ばなければいくらでもあるはずだ、というのが私の持論である。
仕事がないない言ってる奴に限って選んでるのである。
とにかく彼の身に何があろうが助けるつもりはさらさらなかった。自分の身を守るだけで精一杯だった。だから仕事もしてないくせに人が買った冷蔵庫のものを食いあさり、怪我の傷が痛むから仕方ないんだ、とひがなマリファナを吸う彼をばかな奴だと思って見ていた。「金がない」とあげくの果てには大の男が涙をこぼした。本当に情けなかった。こういう人にだけはなってはいけないと思った。
ところがそれでも私は彼から離れられなかった。なぜか?それは私もアホだったからである。あまりに弱すぎた。あまりに一人になるのが怖かった。どんな奴でもいいから誰かと一緒にいたかった。私たちはアホ同士、肩を寄せ合って生きていた。