19、バイロンベイ

町は一年の締めくくり大晦日を迎えようとしていた。さて、どこで過ごそうか?私が選んだ場所はバイロンベイ。ゴールドコーストから90`南に位置し、オーストラリアで一番東に位置する人口わずか6000人の町だ。海や芸術を愛する、サーファーとヒッピーの町で、そのこじんまりさが若者に支持されているとのことだった。選んだ理由は、バンダバーグで知り合った友達がそこで働いており、とてもいい所だと褒めていたからだ。ところがついてみると、そんな小さな町は人で溢れ返っていた。全く知らない町だったが意外と有名だったことに驚く。ふらりと入った宿はどこも満室で、友人のいる宿になんとか一晩おいてもらうことになった。外国人に人気のある宿だったが、イコール、汚くて安いパーティーハウスということ。ヒッピーに人気があるらしくあちこちの壁にはスプレーで“アート”と称されるものが施されていたが、私にはただこ汚く見えるだけだった。
宿は酒を飲みまくる世界中のバックパッカーやヒッピーたちで溢れ返っており、ガンガンに響くテクノ、若者たちは酔いがまわって大騒ぎしていた。
私は絶句した。あきらかに場違いな場所にいたからだ。
居心地の悪い宿をとっとと抜け出すと、賑やかに盛り上がる町へと繰り出した。一人でいる人はほとんどいない。カップルや家族、グループ。
「寂しいなあ・・・」
盛り上がる宿からつまはじきにされ、大晦日の夜、知らない国で一人通りをさまよっていた私はちょっとブルーになっていた。
すると
「日本人ですか?」
と、声をかける人が。見ると日焼けした肌、真っ黒な髪を後ろでしばった青年が私に話しかけてきた。一瞬、バリ人かと見間違うほど真っ黒に日焼けしており、そのちょっとオリエンタルな顔つきは日本人離れしていた。
お互いに一人なのを知ると、やはり彼も大晦日の夜に過ぎ行く一年を一緒に見送る人が欲しかったらしく、私たちは意気投合した。そのまま人でごったがえすビーチへ出ると打ち上げられた美しい花火を見上げ新年を共に祝った。その後軽くビールを飲み、なんとなく次の日も会う約束をした。
翌朝。明るくなって見てみると、バイロンベイは土産物屋の連なるなかなかの観光地だった。お金のあるときにきちんとバケーションで来たいな、と思わせるなかなかおしゃれな町。待ち合わせ場所へ行く。彼を見つけるなり私はびっくりした。改めて見る彼は町以上に違う印象を見せていた。なんとまるで柄物の長袖を着ているのかと見間違うほど、両腕に手首までびっしりと刺青を彫っていたのである。まじかで見ると度迫力だ。
「うお〜・・・。すげっ」
失礼だと分っちゃいても私の目はちらちらとどうしても刺青の方にいってしまう。昨夜は本当に長袖をきていたので彼が只者ではないことに気がつかなかった。回りの外国人も彼を振り返っていた。なんの仕事をしてるのかは聞いたけど忘れた。
ここをぷらぷら2人で歩いていると、なんと彼はさりげなく私と手をつないでくるではないか。なんとなく気に入られているような気はしたし、セクシーな好青年だったので悪い気はしなかったが、反面、年の頃も同じで、こんなところで安宿に泊まってる貧乏バックパッカーなんて、あんた一体日本で何やってんの?と、自分のことは棚に上げてそんなことを思っていた。そのハードな見掛けとは裏腹に、ソフトな物腰でやさしい青年だったが、いくら寂しいとはいえ、勢いでこんな刺青兄ちゃんの誘いに乗るほど弱ってもいなかった私は、急に冷めてしまい、とっととバスのチケットを買うと翌日町を出た。