4、旅人の彼氏
その頃私にはボーイフレンドがいた。出会ってすぐに惹かれあい、あっという間に恋に落ちた。年下の彼氏はいつも私を笑わせ、お互いに尊敬しあえる人だった。大好きな人だった。彼といる時が一番よく笑っていた。こんなにも同じ価値観の人がいるんだ、と奇跡的な出会いに感謝した。28歳。付き合いだして2年が経とうとしていた。そろそろ結婚を意識する歳になっていたが、漠然とウェディングドレスに憧れてはいても、なぜか具体的な結婚生活は想像できなかった。わがままで、貪欲な私は彼といながらも
「もっと他に誰かいるんじゃないか?彼でいいのか?」
と心の底で彼では決して満足していない、他の誰かを探し続ける自分に戸惑っていた。もっと条件がよくて、もっと休日を一緒に過ごしてくれて、もっと、もっと・・・。

また、彼が一緒でないと、何もする気が起きない自分にも嫌気がさしていた。どこへ行くにも、何をするにも彼と一緒が良かった。そんな甘えに甘えた自分が嫌だった。彼と一緒にいると私は子供のようにわがままで、どうしようもない甘えたふぬけになってしまった。分ってはいてもどうしようもなかった。コントロールできなかった。
しかし、誰よりも一緒にいたい人だったのに、その頃仕事が忙しく休日もほとんどない彼に私はだんだん不満を抱くようになっていた。

誰と一緒になるにせよ、このままこのうだうだした気持ちのまま30歳を迎えるわけにはいかない。女にとっては明暗を分ける年を目前に私はちょっとあせっていた。このままだったらいつか彼と結婚するのかなあ。でも旅もしたい。家庭をもったら絶対できない。
そんなことを考えていたが、そんな先のどうなるか分からない将来を心配する以前に私には大欠陥があった。

私は自分以外の誰も愛してはいなかった。誰よりも何よりも自分が大好きだった。
今は分かる。旅を計画しだしたあの時、すでに彼は過去の人になっていたんだ。私は大好きな自分のために、何かをやらなきゃと思っていた。でもそれでいい。だって私のための私の人生だもん。悲しいけれど、彼という存在は、未知なる国へとセットされた心を取り戻す理由にはならなかった。

そんなわけで困惑した彼が心の整理をする間もなく、あっという間に私は出て行った。私達は大好きなまま、仲良しのまま別れた。私が二人の絆を力づくで引き裂いた。自分で引き裂いた。突然、大好きな彼女が自分の生活からいなくなるという彼の心中など考えもせずに。。。
ごめんなさい。冷たいようだけど、2人の縁はそこまでだったということ。私が旅に出たいと思い出したときに、もう終わりに向かっていたということ。お互いに必要だった時代を過ごし、そして役割が終わったということ。
こうして私は失うべき人を失った。