6,さて、オーストラリアに行くか

あー、長かった。さて、ここから本題。10ヶ月後。旅から帰った私は猛烈にへこんでいた。肉体的にではなく、精神的に。その理由は旅した人なら分かると思うけど、世間から圧倒的に取り残されてしまうことだ。まさに浦島太郎現象。29歳という年は男にとっても、女にとってもいろんな環境が変わる時期。まず、なんといっても結婚。だいたい30歳前には片付けておこう、という人の結婚ラッシュが29歳で巻き起こる。そしてそれと同時に男友達には「持ち家ラッシュ」。そんな具合でみな自分の人生の転機に忙しく、私が帰ってきたのなんて「あ、そういえばどっか行ってたんだっけ」という感じだった。おまけに私が28年住んだスイートホームは新築のためすでに解体されてなくなっていた。仮家屋の場所が分からないので、空港から母に電話。美容院にいるから鍵をとりに来いという。京成線の切符を買う。久しぶりの日本円が懐かしい。鏡の前で頭にピンをさしまくり、ケープをつけたテルテル坊主状態の母親と久々の対面。リュックを背負った姿に美容院のおばちゃん達は
「あらー!山でも行ってたの?」

家の場所が分からないので、母はテルテル坊主を脱ぎ捨て、ピンが頭にささったまま「近所だ」という家まで案内してくれた。
再び母が美容院へ去った後、私はぱっとしない中古の、前住人の生活感がばっちり漂う家に一人残された。そこはまさに赤の他人の家だった。突然帰った私のために、もちろん部屋などは用意されておらず、兄が15畳以上のばかでかい間取りを占領していた。
旅にでる前あんなに仲良しだった彼氏には新しい彼女がいた。当たり前といえば、当たり前である。しかも私は10ヶ月間それを知らなかった。旅の間幾度となく交わした電話やメールのやり取りで彼は一切そのことに触れなかった。何も知らせず突然の帰国。
「帰ってきたよー」
喜ばれるかと思ったら電話の向こうに困惑している気配を感じた。その夜久しぶりに会い食事をした後
「ごめん。もう好きじゃなくなった。会ったら気持ちの整理がついた」
そして既に特別な人がいることを知らされた。私が旅に出た後、すぐに付き合いだしたと言っていた。
完全に一人で勘違いをしつづけていた。家はないわ、彼氏には彼女がいるわ。私は文字通り居場所を失った。
友人たちは皆結婚し、家を購入し、もうとにかく
「裏切りものーーー!!!!」
と叫びたい気分だった。完全に取り残されていた。ここまでやるか?というくらい、いろんな現実が私を裏切った。

「なんでみんな黙ってるの?!なんで誰も教えてくれないの?!なんで、なんで、なんでーーーっっ!!」
つるんでいた仲間がいつの間にか着々と将来の計画を立てていたことが無償に腹立たしかった。彼らは何も悪くないのに「やられた!」と一人憤慨していた。
自分の意思で旅に出たくせに、まるで誰かのために旅を続けていたようだった。後半はほとんど意地になって旅を続けていた。誰かに何かを認められたくて、「がんばったね」といって欲しくて。
とにかく、あまりに人生に無責任だった自分がとてもショックで、とても孤独だった。いろんな人を傷つけて心配させて、自分勝手なことをした罰なのだろうか??
しかし、こんなどん底状態で私が考えたことは、またまたしょうもないことだった。心がネガティブな状態で考えることはろくなことではない。いろいろ裏切られた(と、感じていた)私は
「日本を捨ててやる!」
という結論に出た。こんな国はとっとと出よう。こんなとこは私の居場所じゃない!
ちくしょーっ!