9,新生活スタート

さて、いよいよ本当に一人ぼっちになった。知り合いといえば、このおっさんくらいだ。
そういやこの人、ピーターという名前。ゆっくり話しをすると彼はなんとまだ36歳だった。どうみても50歳以上だと思っていた私はやや緊張した。30代では射程距離(なんの?)に入ってしまうではないか。しかも全然私のタイプじゃない。いや、はっきりいって世間の女が声を揃えて「絶対無理!」
というに違いない(ごめんピーター。でもホント)。早い話が全くいけてないのだ。
ビン底のような度のきついメガネをかけ、ケント・デリカットのように目がぎょろぎょろと大きく、あごが割れており、背も低い。ひげ剃り後が白い顔に青く、そのくせ体なぜかがっちりと鍛えられていた。うっかり気にいられても困るので必要以上に親しくしないように気をつけた。
しかし、迷惑なことに彼はむちゃむちゃ私にやさしかった。ビスケットやワインを買ってきてくれたり、生活用品はすべて揃えてくれたり。便利だったので、買ってきてくれた冷蔵庫のものはお言葉に甘えいただいていたが。
彼はイタリアンレストランで働いていたので、朝は10時から出かけ、2時頃一度帰ってきて、5時頃再び出かけると、あとは夜中まで帰ってこなかった。ほとんど顔をあわせる機会はなかったので、ラクといえばラクだったけど、それ以上になんだか寂しかった。ほとんどいない彼だけど、夜私が遅くまでテレビを見ている時や朝だけ顔をあわせた。二人で並んでソファに座り、コーヒーを飲んで世間話をする。気持ち悪いおやじだったが、ひとりぼっちで寂しく、また英語の会話に飢えていた私は
「とりあえず外人だし。まっ、いっか」
と、とりあえず良しとすることにした。ところが3日目あたりから、だんだんとこの家の、そしておやじの異変に私は気づきだした。